
Steinninn, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0Wikimedia Commons経由
読者の皆さまへ
ご無沙汰しております。近況をお伝えするのは久しぶりですが、水面下でプロジェクトは着実に進んでいます。チームが形になり、ホイスコーレ(デンマーク発祥の、試験も成績もない全寮制の学び舎)や事業に詳しい方々と、長く対話を重ねてきました。そしてこの夏、日本に移住し、現地でプロジェクトを前に進める予定です。詳細は改めてご報告します。
今回は、最近もっとも刺激を受けた話をご紹介します。
2026年4月末、私はデンマーク・ホイスコーレ協会(FFD)の会長、リスベス・トリンスキャー(Lisbeth Trinskjær)さんとお会いしました。デンマークのホイスコーレ界で最も経験豊かな方のひとりです。アンダーセン・ホイスコーレの構想をお話しし、想像以上に多くのことを持ち帰ることができました。そして話の終わり近く、何気ない一言でこう言われました。「アイスランドのホイスコーレで起きていることを見てみるといい」。
アイスランドにホイスコーレがあることさえ、私は知りませんでした。それでもアドバイスに従い、アイスランド語やノルウェー語の記事やウェブサイトを、機械翻訳を頼りに読み進めました。少しずつ全体像が見えてくるにつれ、驚かされました。これは、消えかけた町と、その流れを変えたホイスコーレの物語です。
アイスランド北西部の小さな町
アイスランドの北西部、ウェストフィヨルド(西部フィヨルド地方)は、もともと遠く離れた国のなかでも、とりわけ孤立した地域です。そこにフラテイリ(Flateyri)という小さな町があります。1792年に創設され、捕鯨と漁業で栄えてきました。切り立った山々に囲まれたフィヨルドの岸に位置し、自然は美しく、同時に厳しい場所です。[10]
フラテイリは長年、人口減少に悩んできました。子どもが減り、育った若者は大きな町へ出ていく。日本の多くの地域にも重なる、よく知られた構図です。ただしフラテイリの場合、その度合いはより極端でした。
時が止まった瞬間
町の人口が最も多かった1964年には、550人が暮らしていました。状況が一変したのは1995年1月13日です。大規模な雪崩が町を襲い、20人の命が失われました。[1] 町はこの痛手から、完全には立ち直れませんでした。遺族は悲しみのなかにあり、残った人々のなかからも、静かに町を離れる人が出ていきました。無力感が広がり、2017年の登録人口は217人まで減っていました。
一時は、町がこのまま消えてしまうかもしれないと思われました。地図から姿を消し、過去の町として語られる存在になりかねなかったのです。そのとき、ある人たちが一つの提案をします。一見すると突飛で、ほとんど不可能に思える提案でした。「ホイスコーレで町を救おう」。
町を目覚めさせた一つの構想
構想は2016年、約30人の地元の有志が集まったところから動き出しました。[9] 彼らは、漁業だけに頼っていては町は続かないと考えていました。この町で暮らすことを選ぶ、新しい理由が必要だったのです。
答えを見出したのは、デンマークのホイスコーレの伝統でした。この学校の形なら、若者と活気を町に呼び戻せる。彼らはそう確信しました。町に眠る力を呼び覚まし、すでにあるものを活かして流れを変えようとしたのです。
思い描かれたのは、こんな学びの場でした。学生は特別な寮ではなく、ごく普通の家に住み、漁師の隣人として暮らす。学校の教室には、かつての救助ステーション、集会所、地元のプールなど、町の既存の施設を使う。そして最も大切な教室は、屋外の北極圏の自然そのもの。フラテイリという町全体を一つの開かれたキャンパスにし、学校と町を溶け合わせる構想です。
2017年2月、有志が集まって設立総会が開かれ、「フラテイリ・ホイスコーレ」(アイスランド語では Lýðskólinn á Flateyri)が正式に動き出しました。[2] 目標は明確でした。フラテイリを、人が出ていく町から、人が向かう町に変えることです。
ホイスコーレは、19世紀のN.F.S.グルントヴィの思想に根ざした北欧の教育文化です。アイスランドでは、これまで同じようには根づきませんでした。[9] そのため長年、アイスランドの若者はホイスコーレを体験するためにデンマークへ渡っていました。初代のあとを継いだ校長のインギビョルグ・グズムンズドッティル(Ingibjörg Guðmundsdóttir)さんは、こう語っています(アイスランド語からの翻訳)。「アイスランドには、若者がホイスコーレに学びに行く長い伝統があります。ただし、国内ではありません」。 [1]
自治体は、直接の資金援助、施設の無償提供、開校初年度の運営保証という形で先頭に立ちました。財団、団体、地元企業もそれに続きました。さらに80人を超える個人が、毎月の定期寄付者「ホルヴィニル(Hollvinir、学校の友の会)」として名乗りを上げました。[13] 資金は一つの出どころではなく、人、機関、企業の広いネットワークから集まり、それぞれが土台の一部を担ったのです。
ホイスコーレの開校、そして町に起きた変化
2018年秋、学校は32人の学生を迎えて開校しました。[3] 人口217人の町にとって、その違いは初日から通りの風景に表れました。
成果はすぐに広く知られるようになります。開校の翌年、2019年6月には、アイスランド議会が国として初めてホイスコーレに関する法律を制定しました。この学校の形がアイスランドにも根づいたこと、社会的に重要な役割を果たしていること、そして安定した公的支援に値することが、正式に認められたのです。[5]
2019年6月に校長に就任したインギビョルグさんは、必要とされていたものを次のように説明しています(アイスランド語からの翻訳)。 「次の一歩がはっきりしない人や、従来の教育からいったん離れたい人にとって、これまで足りないものがありました。この学校は、その必要に応えています」。[1]
3年が経つころには、およそ90人が課程を修了していました。初期の卒業生のうち、3分の1が町に残るか、のちに戻ってきています。家族をつくり、事業を始め、町に根を下ろしました。長年上がり続けていた平均年齢は下がり始め、2021年生まれの子どもの数は過去最多になりました。[1] 町は、再び成長に転じたのです。
すると新しい問題が生まれました。住まいが足りなくなったのです。2021年、アイスランド政府は14戸の学生住宅の建設に、1億3,400万アイスランドクローナ(約1億7,000万円)を拠出すると発表しました。フラテイリでは1997年以来、初めての新築住宅です。2021年5月に3代目の校長に就任したカトリン・マリア・ギスラドッティル(Katrín María Gísladóttir)さんは、これを歴史的な出来事だと語りました(アイスランド語からの翻訳)。 「これは学校にとって大きな一歩というだけではありません。町全体にとっての一歩です」。 [6]

Christian Bickel fingalo, CC BY-SA 2.0 DE https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/de/deed.en,
Wikimedia Commons経由
フラテイリ・ホイスコーレの今
現在の学校は、年2回の学期ごとに、およそ26〜30人の学生を受け入れています。[11] 試験も成績も課題提出もありません。日々の中心にあるのは共同生活です。学生は寝食をともにし、学びと暮らしを分かち合い、町の人々とも日常を共有します。
学びは校舎の中だけで完結しません。主な教室は、町の古い協同組合の建物の2階にありますが、実際には町全体が教室です。地元の企業、船、漁業の現場、台所、家畜小屋、森、そして町を取り囲む西アイスランドの自然のなかで学びます。1〜2週間の短期講座が幅広く用意され、それぞれに専門の講師がつきます。学生は年間を通じて、自分で講座を選んで組み合わせることができます。 [10]
卒業生がもっとも価値があったと語るのは、専門的な学びだけではありません。友人、人とのつながり、そして密度の濃い共同生活の1年を通じて気づく、自分自身の強みです。
2025年11月には、教育省と3年間の運営協定が結ばれ、学校の将来はさらに確かなものになりました。教育大臣のグズムンドゥル・インギ・クリスティンソン(Guðmundur Ingi Kristinsson)氏は、同省によれば新学期の開始時にハッラ・トーマスドッティル大統領とともに学校を訪れ、次のように述べています(アイスランド語からの翻訳)。 「フラテイリのホイスコーレでは、学生を力づけ、自分の力への信頼を高める大切な取り組みが行われています。実践的で体験を重んじる学びに重点を置くこの学校は、教育制度の多様性を豊かにしています」。 [8]
この協定は、次の具体的な一歩につながりました。2026年4月、学校は町の旧救助ステーションの建物を3,300万アイスランドクローナ(約4,300万円)で購入しました。学校として初めて所有する建物であり、この取り組みが町に定着したことを示す、もっともはっきりした証です。[12]
日本への手がかり
フラテイリのホイスコーレは、ホイスコーレが単なる教育の場にとどまらないことを示しました。地域が新しく生まれ変わるきっかけになり得るのです。逆風のなかにあった町に、学校は新しい住民を呼び込みました。教員や学生のなかには、そのまま定住を選んだ人も多くいます。やがて政治的・経済的な支援も続き、今では学校が町を支える柱になっています。
日本の各地にも、空き家や人口減少という、似た課題を抱える地域があります。ホイスコーレという形が、その答えの一部になり得るのではないか。フラテイリは、私たちにとって学ぶべき具体的な事例です。日本の地域には、それぞれの事情があります。そのまま当てはめるのではなく、この歩みから学びながら、日本での道筋を探っていきます。
プロジェクトの進捗をご覧になりたい方、関わってみたい方は、お気軽に下記のアドレスまでご連絡ください。 info@andersenhojskole.dk.
フラテイリ・ホイスコーレについて詳しく知りたい方は、下記の公式サイトをご覧ください。 lydflat.is.
出典・参考資料
[1] Sigrún Magnúsdóttir, “Folkehøgskolen bidrar til mer bærekraftig samfunn”, NLL.org, 3. august 2021. https://nll.org/artikler/folkehogskolen-bidrar-til-mer-baerekraftig-samfunn/
[2] “Stefna á að opna lýðháskóla 2018”, Morgunblaðið, 11. februar 2017.https://www.mbl.is/frettir/innlent/2017/02/11/stefna_a_ad_opna_lydhaskola_2018
[3] “Vilja opna lýðháskóla á Flateyri næsta haust”, RÚV, 5. februar 2018.https://www.ruv.is/frettir/innlent/vilja-opna-lydhaskola-a-flateyri-naesta-haust
[4] “Lýðskólinn á Flateyri”, Wikipedia.https://en.wikipedia.org/wiki/Flateyri_Folk_High_School
[5] “Lýðskólinn á Flateyri”, BB.is, 16. august 2019.https://bb.is/2019/08/lydskolinn-a-flateyri/
[6] “Fyrstu nýbyggingarnar á Flateyri síðan 1997”, RÚV, 11. september 2021.https://www.ruv.is/frettir/innlent/2021-09-11-fyrstu-nybyggingarnar-a-flateyri-sidan-1997
[7] “Vilja fjölga nemendum og að Flateyri verði lýðskólaþorp”, RÚV, 7. december 2021.https://www.ruv.is/frettir/innlent/2021-12-07-vilja-fjolga-nemendum-og-ad-flateyri-verdi-lydskolathorp
[8] “Langtímasamningur við Lýðskólann á Flateyri”, Stjórnarráðið, 28. november 2025.https://www.stjornarradid.is/efst-a-baugi/frettir/stok-frett/2025/11/28/Langtimasamningur-vid-Lydskolann-a-Flateyri/
[9] “Hver er saga lýðskóla á Íslandi?”, Fræ.is, 17. december 2018.https://gatt.frae.is/2018/hver-er-saga-lydskola-a-islandi/
[10] “Um Lýðskólann á Flateyri”, Lýðskólinn á Flateyri.https://lydflat.is/skolinn/
[11] “Margrét Gauja tekur við Lýðskólanum á Flateyri”, Vísir.is.https://www.visir.is/g/20252675966d/margret-gauja-tekur-vid-lydskolanum-a-flat-eyri
[12] “Lýðskólinn á Flateyri keypti húsnæði undir skólann”, BB.is, april 2026.https://bb.is/2026/04/lydskolinn-a-flateyri-keypti-husnaedi-undir-skolann/
[13] “Styrktaraðilar”, Lýðskólinn á Flateyri.https://lydflat.is/styrktaradilar/
